150年前の科学誌から、現代を読み解く
世界で最も有力な科学誌の一つ、イギリスの科学雑誌『ネイチャー』(NATURE)が、創刊150年を迎えます。ノーベル賞はじめ多くの有名な論文を掲載してきたネイチャーは、日本がようやく戊辰戦争を終えた1869年に創刊されました。
創始者のアマチュア天文家、ノーマン・ロッキャーはじめ、ネイチャーに関わった人々は、その後30年間赤字が続く中でも、強烈な使命感と、読者のあふれる好奇心に支えられながら刊行を続けました。いったい、150年前のネイチャーには何が書かれていたのか?ダーウィンも活用した「SNSの原点」、日本愛あふれる科学者、女性科学者の苦悩と希望、科学誌が見た明治日本の姿とは?「志」、そして「友情」が育んだ希望とは。
初期「ネイチャー」から現代、そして未来を読み解くヒントを探る、知的冒険の一冊です。
■150年前のSNS(読者参加型の誌上討論)(第2章、第3章)
初期ネイチャーの特長。それは、現代のSNSに相当する、読者投稿欄(letters to the editor)の活用でした。専門家のみならず一般読者を巻き込んだ「カッコウの卵大論争」、ダーウィンの呼びかけに読者が応える、シニカルでユーモアに富んだ紳士・淑女のやりとり。
■日本に「世界最先端の工学教育」を導入したイギリス人の心意気(第8章)
ネイチャー創刊は明治2年。創刊後すぐに日本を全面紹介し、西洋のフィルターを通して見た維新前後の日本の魅力を描いています。日本の近代化に貢献したお雇い外国人でもあった、H.ダイアー。彼らによって日本は、当時「世界最先端の工学教育」を導入します。ネイチャーはそこに込められた思いを記録しています。
■「科学と社会の良い関係」を作ろうとしたイギリス科学界(第4章、第5章)
創刊当時、ネイチャーは学術雑誌でありながら第一読者を「一般大衆」と定めました。人々を迷信から解き放つための科学教育と同時に、社会のなかで、自ら(科学者や科学文化)をどう位置づけるかに、真剣に向き合いました。
本書では、「ダーウィンの進化論によって生じた科学と社会の緊張」「女子の高等(医学)教育問題」「国家による科学支援の是非」といった話題を紹介し、背景を含めて解説。そこには、現在にも通じる重要な視点が存在します。
目次
序 なぜ今、150年前の科学雑誌を読むのか(本書の目的)
第1章 nature創刊に託された思い
第2章 ヴィクトリアンの科学論争
第3章 150年前の科学
第4章 なぜ国が科学にお金を出すのか
第5章 女子の高等教育 ―「壁」を越えた女子医学生たち―
第6章 チャレンジャー号の世界一周探検航海
第7章 モースの大森貝塚
第8章 nature誌上に見る150年前の日本