「新しいアイデアが出ない」「企画が通らない」——。多くのビジネスパーソンが直面するこの課題は、論理とデータだけを頼りにする従来のアプローチの限界を示唆しています。市場が成熟し、機能的価値での差別化が困難な現代において、真に顧客の心を掴み、市場を動かす力はどこにあるのでしょうか。
本書『おもちゃ流企画術』は、その答えが「遊び心」と「感情」にあると断言します。著者の大澤孝氏は、「ベイブレード」や「人生銀行」など数々のヒット商品を手掛けた元タカラトミーのトイクリエイター。本書で明かされるのは、20年以上の経験で培われた、人の心をワクワクさせる企画を生み出し続けるための、極めて実践的な方法論です。これは単なる玩具業界の裏話ではなく、あらゆるビジネスに応用可能な、新しい価値創造の設計図です。
本書の核心は、顧客の「不満(ペイン)」を解消するのではなく、顧客の「喜び(プラスの感情)」を創造することから始めるという、思考の根本的な転換にあります。どうすれば人を笑顔にできるか? どうすれば夢中にさせられるか? この純粋な問いから出発することで、競争の激しい既存市場(レッド・オーシャン)を抜け出し、まったく新しい市場(ブルー・オーシャン)を創造する道筋が見えてくるのです。これは、すべてのビジネスリーダーが学ぶべき、閉塞感を打ち破るための新しい教科書と言えるでしょう。
【目次】
- 第1章 「おもちゃ流」とは
- 第2章 おもちゃ流をつくる「プラスの感情」
- 第3章 【基礎編】おもちゃ流アイデア術
- 第4章 【応用編】ヒット商品から新商品を生み出すおもちゃ流アイデア術
- 第5章 アイデアを「企画」へ! おもちゃ流企画術
本書から学べる3つの核心
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ニーズ起点から「感情起点」へのパラダイムシフト
本書が提示する最も重要な概念は、企画の出発点を「顧客のニーズ」から「届けたい感情」へと転換することです。機能やスペックで差別化を図るのではなく、「興奮」「喜び」「安らぎ」といった6つのプラスの感情を意図的に設計し、顧客の心を直接動かすアプローチを学びます。この視点は、コモディティ化の波に飲まれない、熱狂的なファンを生むブランドを構築するための根幹となります。
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誰でもアイデアを生み出せる魔法の公式「人×感情×カテゴリー」
「アイデアはセンスある人だけのもの」という思い込みを覆すのが、本書が提唱するシンプルな公式【人×感情×カテゴリー】です。このフレームワークに従うだけで、誰でも、どんな組織でも、体系的に新しいアイデアを発想することが可能になります。本書では豊富な事例と共にこの公式の使い方を解説しており、読んだその日からチームのブレインストーミングを劇的に変えることができます。
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アイデアを成功に導く「実現可能性」という名の羅針盤
突飛なアイデアも、ビジネスとして成立しなければ意味がありません。本書は、自由な発想である「アイデア」と、商業的な成功を目指す「企画」を明確に区別します。そして、アイデアを企画へと昇華させるために不可欠な「実現可能性」というフィルター(特にコスト意識)の重要性を説きます。クラウドファンディングで2,000万円以上を集めた「ミャウエバー」開発秘話などを通じ、夢を現実に変えるためのプラグマティックな思考法を学べます。
経営者・経営企画の皆様へ:本書がもたらす3つの経営変革
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予測不能な市場を勝ち抜く「新たな価値基準」の獲得
ロジックとデータ分析だけでは、市場の非連続な変化を捉えることはできません。本書が示す「感情」という軸は、顧客インサイトの深層に迫り、まだ誰も気づいていない新たな価値の源泉を発見するための強力なレンズとなります。競合がスペックを競う中で、自社は「顧客の喜び」を最大化する。この新しい価値基準を持つことで、持続的な競争優位を築くことができます。
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イノベーションを組織能力に変える「体系的フレームワーク」
イノベーションを個人の才能や偶発的なひらめきに依存する時代は終わりました。「人×感情×カテゴリー」という共通言語を導入することで、組織の誰もが創造的なプロセスに参加できる文化が醸成されます。これにより、イノベーションは管理可能で再現性のある「組織能力」へと昇華し、企業全体の成長エンジンとなります。
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失敗を恐れない「挑戦的な組織文化」の醸成
「おもちゃ」や「遊び」というフレームワークは、ビジネスに心理的安全性をもたらします。真面目な会議では出てこないような大胆なアイデアも、「遊び」の場では許容され、称賛される。この経験の積み重ねが、失敗を恐れずに挑戦するマインドセットを組織に根付かせ、結果として大きなブレークスルーを生み出す土壌となるのです。
事業部長・現場リーダーの皆様へ:本書がもたらす3つの現場変革
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「アイデアが出ない」チームからの即時脱却
「何か新しいアイデアを出してくれ」という漠然とした指示に、チームが沈黙する…そんな光景はもう終わりです。本書の公式を使えば、「〇〇な人(人)に、〇〇な気持ち(感情)になってもらうための、〇〇(カテゴリー)を考えよう」という具体的な問いをチームに投げかけることができます。これにより、思考が活性化し、誰でもアイデア出しのスタートラインに立つことができます。
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メンバーの主体性を引き出す「創造的ファシリテーション」
リーダーの役割は、答えを与えることではなく、チームが答えを見つけられる環境を作ることです。「おもちゃ流」のフレームワークは、そのための強力なファシリテーションツールとなります。「遊び」のプロセスを通じて、メンバーは自発的に意見を出し合い、楽しみながら企画を練り上げるようになります。これにより、チームのエンゲージメントとアウトプットの質が飛躍的に向上します。
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企画を通すための「共感」という最強の武器
優れた企画とは、ロジックが正しいだけでなく、人の心を動かす物語を持つものです。本書のアプローチで練り上げられた企画は、「なぜこの製品が必要なのか」という問いに対し、「顧客に〇〇という素晴らしい感情を届けたいから」という、共感を呼ぶ明確な答えを持っています。この感情的な裏付けが、経営層や関係部署を説得し、プロジェクトを推進する強力な力となります。