週末の温泉旅行や、仕事帰りの美味しいお酒。一週間のご褒美としてこうしたリフレッシュを楽しみにする人は多いですが、脳科学の視点から見ると、溜まったものを後からリセットするやり方は、思ったほどの効果を得られないケースが少なくありません。強いプレッシャーや不快な出来事に遭遇したとき、脳の奥にある扁桃体という部分が危険を察知してアラートを出し続けます。この緊張状態をそのまま放置して週末まで引っ張ると、ストレスホルモンが分泌され続け、やる気や安心感を生み出す脳内物質がスムーズに作られなくなってしまいます。ひどい脳疲労に陥る前に、その日のうちに、その場でリフレッシュする習慣が大切です。

東京工業大学大学院で博士号を取得し、官公庁での実務を経て多くの人々のメンタルやパフォーマンスアップを支援してきた西剛志は、1万人を超えるビジネスパーソンのデータを見る中で、ある明確な事実に行き着きました。本当に必要なのは、溜まったストレスを必死に発散することではなく、そもそも「脳にストレスを侵入させない仕組み」を作ることです。本書『脳科学でわかった仕事のストレスをなくす本』(アスコム)は、人間関係や日々の業務の中で直面するさまざまなモヤモヤを、仕事中にこっそりリセットするための実用的なセルフケアを多数紹介しています。

ストレスをもたらす出来事そのものは、周りの環境や他人の行動ではなく、私たちの脳がどう受け止めたかによって決まります。脳の仕組みをちょっとだけ理解して、職場や帰り道で誰にも気づかれずにできる小さな工夫を試してみるだけで、重い気持ちは自宅の玄関を開ける前に、軽やかに消えていきます。周囲の状況を変えようと消耗するのをやめて、自らの捉え方のレンズを少しだけ変えてみるアプローチは、忙しい日々を送る人にとって非常に心強い味方になります。

【目次】

  • 第一章 人間関係のストレスをなくす
    ― 苦手なあの人から解放される「とっておきの脳科学」
  • 第二章 仕事で溜まったストレスをなくす
    ― スーッと心と体がラクになる「すごい脳の使い方」
  • 第三章 脳内物質不足を解消
    ― ムリして働くストレスをなくす「働き方マトリクス」
  • 第四章 仕事が合わないストレスをなくす
    ― 合う仕事、合わない仕事がわかる「ビッグファイブ診断」
  • 第五章 キャリア不安をなくす
    ― 仕事のストレスがない「別世界」で生きていく
  • 最終章 それでもストレスで苦しい人への処方箋

本書から学べる3つの核心

  • 1脳の健康を守るための「扁桃体アラートの早めのリセット」

    苦手な人とのやり取りや終わらない仕事に追われているとき、脳の警戒システムである扁桃体が常に働き、身体をこわばらせる緊張状態が続いてしまいます。この状況が続くと、物事を冷静に考えるのが難しくなるだけでなく、記憶や感情に関わる脳の働きそのものに悪い影響を与えてしまいます。不機嫌や疲れを家に連れて帰る前に、その場で一度、気持ちのスイッチを穏やかに切り替えるステップを挟むことが、前向きなパフォーマンスを保ち続けるためのベースになります。

  • 2苦手なものへの過剰な反応を抑える「ネームチェンジ」と「ミュージックシフト」

    特定の相手に対して苦手意識が強まるのは、脳がそこに意識を集中しすぎてしまうからです。この性質を逆手に取り、スマートフォンの連絡先にある苦手な人物の登録名を「B」のような無機質な記号に変更してみます。名前を目にするたびに嫌な記憶が引っ張り出されるのを防ぎ、脳の不要な興奮を落ち着かせることができます。さらに、対面する前にお気に入りの曲を聴いて捉え方のレンズを切り替える「ミュージックシフト法」など、仕事中に1分でできる気軽な工夫が、日々の余計なモヤモヤをきれいに受け流してくれます

  • 3「ビッグファイブ」と「ジョブ・クラフティング」で働きやすさを整える

    今の仕事がどうしても自分に合わないと感じるとき、勢いだけで転職活動に進むのは避けたいところです。自分の得意なことや心のクセをよく見極めないまま環境を変えても、同じところでつまずいてしまう可能性があります。科学的に評価の高い「ビッグファイブ診断」によって自分の脳のタイプを可視化し、やる気の源となる脳内物質がどの環境で出やすいのかを確認します。その上で、今の役割の中で自分の強みを活かせるやり方に少しずつ仕事を引き寄せていく「ジョブ・クラフティング」を取り入れることで、無理のない快適な働き方が見つかります。

ビジネスパーソンの皆様へ:本書がもたらす3つの自己変革

  • 1「引きずらない脳」で毎日のパフォーマンスを安定させる

    一度嫌な気持ちを引きずってしまうと、普段ならスムーズに終わる仕事にも倍近くの時間がかかり、些細なミスも増えてしまいます。小さなトラブルが起きたとき、その場ですぐに脳の状態を落ち着かせるセルフケアを身につけます。そうすることで感情に流されないフラットな状態でいられる時間が増え、仕事の質や効率が安定した軌道に乗ります

  • 2仕事以外の趣味を楽しむことで、ストレスを跳ね返す力を高める

    プライベートの過ごし方も、脳の回復力を左右する大切な要素です。ただ本や動画を眺めるインプット型の時間よりも、スポーツやカラオケのように自分で体を動かしたり声を出したりするアウトプット型の趣味に熱中する方が、職場での出来事から立ち直る力が1割ほど高くなります。仕事とは全く別の領域で好きなことに没頭する習慣が、タフな毎日を支える心の余裕を作ってくれます。

  • 3脳内物質「DOS(ドス)」を味方につけるセルフコントロール

    やる気の源になるドーパミン(D)、安心や信頼を生み出すオキシトシン(O)、感情をすこやかに整えるセロトニン(S)の3つの幸せホルモン。これらを周囲の環境に用意してもらうのではなく、自らの行動で上手に分泌させます。笑顔を作る、リズムを意識して歩く、場所を変えて気分転換するといった工夫を取り入れ、自分自身のモチベーションを機嫌よく管理していきます。

リーダー・マネージャーの皆様へ:本書がもたらす3つの組織変革

  • 1「つらい状態になる前に対処する」セルフケアの定着

    メンバーが心身のバランスを崩して休職や離職に至ってからケアをするやり方は、チームにとっても大きな損失になります。一人ひとりが自分の脳に過剰な負担をかけないための知識を持ち、職場の小さなモヤモヤを日々リセットできる体制を整えます。ストレスが水面下で蓄積していくのを未然に防ぎ、誰もが安心して働き続けられる穏やかな職場環境が保たれるようになります。

  • 2科学的な性格診断を取り入れた適材適所の配置

    部下の適性を上司の「これまでの経験則や主観」だけで見極めようとすると、どうしても仕事のミスマッチが起きやすくなります。客観的なビッグファイブ理論に基づく脳タイプ分類を取り入れ、メンバーそれぞれの得意な環境ややりがいを感じやすいポイントを把握します。一人ひとりがのびのびと力を発揮できるような、科学的な根拠に基づく適材配置をスムーズに進められるようになります

  • 3「快楽物質DOS」のバランスを整え、働きやすい職場を作る

    進捗をこまめに確認し合って小さな達成感を共有し、お互いを尊重し合える信頼関係を整えます。こうした取り組みでチーム全体のドーパミンやオキシトシンの働きが活発になります。プレッシャーや恐怖で無理やり動かすようなマネジメントから完全に抜け出し、メンバーがそれぞれの自主性と豊かなアイデアを引き出しながら楽しく働ける組織へと育てていきます