「原材料費が高騰し、値上げせざるを得ない。しかし客離れが怖い」。長年続いたデフレマインドが染み付いた日本企業において、値上げは最大のタブーとされてきました。しかし、インフレ時代への突入により、薄利多売モデルはもはや限界を迎えています。そんな中、世の中を見渡せば、価格が高くても、驚くほど売れている商品やサービスが存在します。

本書は、「ストーリーブランディング」の第一人者である川上徹也氏が、リップモンスター、ヤクルト1000、1粒1000円のイチゴなど、値上げや高価格設定でも大ヒットしている実例を徹底分析。「なぜ、人は高くてもそれを買いたくなるのか?」という消費者の深層心理を解き明かし、インフレ時代を勝ち抜くための7つのキーワード(鉄則)を提示します。

単なる事例集ではありません。「アガる」「自分メンテナンス」「応援消費」といった、現代の消費者が財布の紐を緩める「感情のスイッチ」を体系化。中小企業から大企業まで、商品に新たな価値(ストーリー)を付加し、「価格競争」という消耗戦から脱却するための実践的なヒントが満載の一冊です。

【目次】

  • 第1章 なぜ、コロナ禍に「リップモンスター」はバカ売れしたのか?
  • 第2章 イチゴを1粒1000円で売る方法を考えなさい
  • 第3章 なぜ、私たちはYakult1000が欲しくなるのか?
  • 第4章 なぜ、ゴディバはローソンやマックで商品を売るのか?
  • 第5章 廃棄寸前の真鯛が6300匹も売れた理由
  • 第6章 今、なぜ昭和レトロ家電が売れるのか?
  • 第7章 ガチ中華が魅力的に感じるのはなぜ?
  • 第8章 今すぐ価格の壁を打ち破るための7原則

本書から学べる3つの核心

  • 1「機能」ではなく「感情」に価格をつける

    スペックや機能だけで勝負しようとすれば、必ず価格競争に巻き込まれます。本書で紹介される「アガる(気分が高揚する)」や「レトロエモい(懐かしさで心が動く)」というキーワードは、顧客が対価を支払っているのは「モノ」自体ではなく、それによって得られる「感情体験」であることを示しています。機能的な価値を超えた「感情価値」をいかに設計し、提案できるかが、高単価でも選ばれる最大の鍵となります。

  • 2顧客が買いやすくなる「言い訳(理由)」を用意する

    インフレで節約志向が高まる中、消費者は「贅沢をすること」に罪悪感を抱きがちです。しかし、「これは健康のための投資(自分メンテナンス)」や「頑張った自分へのご褒美(プチ贅沢)」といった「買うための正当な理由(言い訳)」が用意されていれば、心理的なハードルは一気に下がります。本書は、マーケティングとは単に商品を売り込むことではなく、顧客が自分自身を納得させるための「大義名分」を提供することだと教えてくれます。

  • 3「文脈(コンテキスト)」を変えて価値を再定義する

    スーパーでパック売りされているイチゴは数百円でも高いと感じられますが、「贈答用の一粒」として文脈を変えれば1000円でも売れます。これは商品そのものを変えるのではなく、「いつ」「どこで」「誰に」「どのような目的で」売るかという文脈をずらすことで、価格の許容範囲が劇的に変わることを意味します。本書の実例は、既存商品のままでも売り方や見せ方を変えるだけで、高付加価値商品へと生まれ変わる可能性を示唆しています。

経営者・マネジメント層の皆様へ:脱・価格競争のための3つの経営視点

  • 1「謝罪の値上げ」から「価値提案の値上げ」への転換

    多くの企業が「コスト高騰のためやむを得ず」と申し訳なさそうに値上げを行いますが、それでは顧客は離れていきます。本書の鉄則を取り入れることで、値上げを「新たな付加価値の提供」の機会としてポジティブに再定義するマインドセットが得られます。消極的な価格転嫁ではなく、ストーリーや意味を付加することで、堂々と適正価格を提示し、利益率を改善する強い経営体質への転換を促します。

  • 2自社の「隠れた資産」を収益化する再発見

    第6章の「レトロエモい」が示唆するように、長年経営を続けてきた企業には、自分たちが気づいていない「資産」が眠っています。古い商品、創業時のエピソード、変わらないパッケージ。これらは時代遅れの遺物ではなく、現代の若者や新しい顧客層にとって新鮮な価値になり得ます。本書は、自社の歴史や既存商品を「再評価」し、コストをかけずに新たな収益源に変える経営視点を提供します。

  • 3「安売り」からの脱却とファンベース経営

    「ガチニッチ」や「応援消費」の事例は、万人に好かれようとする八方美人の戦略が通用しなくなっていることを示しています。経営において重要なのは、規模の拡大よりも、高くても買い続けてくれる熱心なファンをいかに作るかです。ターゲットを大胆に絞り込み、その層に深く刺さる独自の「尖り」を作ることへの勇気が、インフレ時代を生き残る最強の防衛策になることを本書は教えてくれます。

現場のマーケター・企画担当の皆様へ:ヒットを生む3つの実践アプローチ

  • 1顧客の背中を押す「最強の言い訳」作り

    企画書やプロモーションにおいて、「良い商品です」とアピールするだけでは不十分です。現場担当者が本書から学ぶべき最大のスキルは、顧客が購入時に感じる罪悪感を払拭する「言い訳」の設計です。「これは浪費ではなく、自分への投資だ」「推しのための応援活動だ」といった顧客が納得しやすいロジックを商品コンセプトに組み込むことで、購入への最後のハードルを取り除くことができます。

  • 2「アガる」要素の具体的な実装

    第1章の「リップモンスター」の事例にあるように、商品は機能だけでなく、気分が「アガる」かどうかが重要です。これはネーミング、パッケージデザイン、販促キャンペーンのすべてに応用可能です。現場レベルで、「この施策は顧客の気分を高揚させるか?」という問いを常に持ち、感情に訴えかけるクリエイティブを追求するための具体的な指針が本書には詰まっています。

  • 3ターゲットの「解像度」を極限まで上げる

    「誰にでも売れるもの」を作ろうとすると、結局誰にも刺さらない商品になります。本書の「ガチニッチ」の鉄則は、ターゲット設定の重要性を再認識させます。「30代女性」といった大雑把な括りではなく、「〇〇な瞬間に、××な感情を抱く人」というレベルまでターゲットの解像度を上げ、その特定の人の心に深く突き刺さる企画を立案すること。それが結果として、熱狂的な支持とSNSでの拡散を生む近道であることを学べます。